■同じ建築家でも。。。
●THE MEIBIA MIYAZAKIで感じたこと
宮崎で宿泊したTHE MEIBIA MIYAZAKI(旧ガーデンテラス宮崎)を前にすると、有名建築家の設計による公共施設をめぐる議論の多くがどれほど本質からズレたものかが見えてくる。
設計者には同じ「隈研吾」という名前が付いていても、民間のホテル(MEIBIA)では空間が整い・体験が成立し、静かに”回っている”。
一方で行政の世界では、比較的短いスパンで同氏の設計による各地の公共施設の劣化や膨大な修繕費がニュースになり、責任の所在が曖昧なまま炎上している。違いは木材かどうかでも、設計者の人格・スキルでもない。発注者が、経営感覚を持っているのか、経済合理性をベースにしたプロジェクトとすることを前提にしているかどうかである。
隈研吾建築都市設計事務所の紹介によれば、旧ガーデンテラス宮崎(現THE MEIBIA)は工場跡地を中庭型ホテルとして再生したものとされている。
「竹」をテーマに外壁・インテリアに竹を用い、周辺住宅に配慮して2階建てとしている(竣工2012年、延べ面積4,562㎡)。更に2024年には新館の整備や名称変更が行われ、新館は客室18室の増設、中庭への宿泊者専用温水プール・ジャグジー整備など”体験価値のブラッシュアップ”が行われている。
MEIBIAでは、設計の説明が最初から「何を表現したいか(≒意匠))」だけで閉じず、オールインクルーシブで「どんな体験をどう成立させるか(≒コンテンツ)」に踏み込んでいる。ここに民間事業者としての発注者の意図が見て取れる。
●経年は味わいOR劣化?
実際に宿泊してみると、竹のルーバーには経年変化が見られるが、「劣化」とは全く異なる状況にある。清掃・維持管理が行き届き、周囲の植栽等の外構との調和も良好な水準で保たれており、竣工直後では決して出せないそこの場が醸成してきた「味」になっている。また、竹を含めた劣化が容易に想定される木材等は建築上必須の構造・屋根・外壁等として使用していない。
MEIBIAではこれらの素材と時間の経過に伴う侘び寂びに近い空気感、洗練された意匠、何より高質で丁寧なサービス等、全体の体験価値が高いクオリティで提供されている。「この空間にいること」自体が心地よいとき、適切に管理された素材の経年変化は「味わい」になる。「この空間にいること」に価値を感じず、適切な管理もなされず放置されたまま時間を浪費してきた(≒愛されてこなかった)とき、同じ経年変化は単なる「劣化」になる。
■「劣化」が報道された公共施設
公共施設の場合は、しばしば指摘しているように「建設すること」がゴールになりやすい。「建設すること」に向けては一般財源だけでなく補助金・交付金や起債に依存してでもイニシャルコストを徹底的にかき集め、庁内の人員・組織等も最大限に投入して、身の丈以上のリソースをかける。しかし、「そこがどのような場で誰にどのようなサービスをどのグレードで提供するのか」やそもそも「誰がどう経営するのか」がセットアップされていないことが大半である。更にいえばランニングコスト・維持管理運営体制が事前に検討され、十分に確保されている例などはほとんどないだろう。
●那珂川町馬頭広重美術館
栃木県那珂川町の馬頭広重美術館は2000年に開館し、隈研吾の代表作の一つとして知られる。地元産の八溝杉を用いた繊細なルーバーが特徴的な建築である。歌川広重の肉筆画を収蔵する美術館として「広重の浮世絵に見られる日本の原風景」を建築で表現したとされる。
現在、開館から24年が経過し老朽化が進んでいる。報道によれば大規模改修には300百万円規模がかかる見込みであり、町はふるさと納税やクラウドファンディングで資金を集めようと奔走していたが、残念ながらクラウドファンディングでは目標額を10,000千円としていたものの期間内には1,796千円/93人しか集まることはなかった。つまり、この美術館に「自分の金」を出してでも応援したい人は100名もいなかったことになる。これが愛されていないハコモノの実態である。
那珂川町の人口は約14千人。2025年度の当初予算は一般会計総額9,680百万円(うち町税1,812百万円)の財政規模から見れば、300百万円は決して小さな金額ではないし、はっきり言って(町税の1/6に及ぶ大規模改修費の捻出は)完全に無理ゲーの世界である。この改修費をどう捻出するかで、町は頭を悩ませている。
馬頭広重美術館の開館は2000年で、総務省が公共施設等総合管理計画の策定を要請したのは2014年であることを考えても、当時はまだ行政に「公共施設マネジメント」という概念は一般的ではなく、維持管理運営コストの重要さやLCCの概念なども浸透していなかった。その意味で、当時の発注者を現在の基準で一方的に批判することはできない。
だが、2025年の今、同じ言い訳は通用しない。LCCという概念は広く知られ、維持管理を見据えた設計・発注が求められることは(民間では)常識・大前提となっているはずだ。
それでもなお、全国各地で同じ構造の失敗が繰り返されるのは、発注者としての行政が「知っているがやらない」からorそれを超越した「何らかの不純な動機」があるからor「今が良ければ(今をやり過ごせば)揉めなくて済む」といったプロ意識の欠如した思考回路・行動原理があるからである。
●富岡市役所
富岡市役所は2018年に完成し、総工費は4,000百万円規模と報じられている。世界遺産「富岡製糸場」のあるまちにふさわしい庁舎として整備された。「シルクの街」にちなんだ白いファサード、地元の木材を使ったルーバー、市民が集う広場。表面上のザ・行政の掲げる方向性としてはそれらしい言葉が連ねられている。
しかし完成からわずか7年で外装の劣化が問題となった。市の説明では、木材自体の腐食は確認されず、軒裏金具の錆膨張で水切りが塞がれ、雨染みが生じたとされている。
富岡市の人口は約46千人。4,000百万円の庁舎を建てた直後に劣化が報じられれば、(この修繕費の市負担はないとはいえ)市民からの視線が厳しくなるのは当然である。
コンセプトとして「市民と共に進化する安全安心な100年庁舎」を掲げながら7年でこのような事態に陥るのは、なんとも皮肉な現実である。
===続きはリンク「まちみらい公式note」===
https://note.com/machimirai/n/n89703d3e75ae

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